達観しない証拠には現に吾輩の肖像が眼の前にあるのに少しも悟った様子もなく今年は征露の第二年目だから大方熊の画だろうなどと気の知れぬことをいってすましているのでもわかる。 　また大兄のごとくか、癪に障る男だと主人が思う。 Ａ君は是非固形体を食うなという。 材料は日本派の俳人だろうと先生が押し返して聞くとボイはへえさようで、それだものだから近頃は横浜へ行っても買われませんので、まことにお気の毒様と云いましたよアハハハそれが落ちなんですか、こりゃ面白いと主人はいつになく大きな声で笑う。 今に左甚五郎が出て来て、吾輩の肖像を楼門の柱に刻み、日本のスタンランが好んで吾輩の似顔をカンヴァスの上に描くようになったら、彼等鈍瞎漢は始めて自己の不明を恥ずるであろう。 せんだってトチメンボーを御馳走した時にね。 今朝の肝癪がちょっとここへ尾を出す。 行くよ必ず行くよ。 それからボイにおいトチメンボーを二人前持って来いというと、ボイがメンチボーですかと聞き直しましたが、先生はますます真面目な貌でメンチボーじゃないトチメンボーだと訂正されましたなある。 タカジヤスターゼは無論いかん。 吾輩ははあと返事をした。 面白いですなと寒月がにやにやしながら云う。 不器量な野良猫は達者でいたずらをしているし……その通りでございますよ。 これは背のすらりとした撫肩の恰好よく出来上った女で、着ている薄紫の衣服も素直に着こなされて上品に見えた。