武右衛門先生もちょっとしたはずみから、とんだ間違をして大に恐れ入ってはいるようなものの、かように恐れ入ってるものを蔭で笑うのは失敬だとくらいは思うかも知れないが、それは年が行かない稚気というもので、人が失礼をした時に怒るのを気が小さいと先方では名づけるそうだから、そう云われるのがいやならおとなしくするがよろしい。 中から見える綿は薄黒い。 だれが見るもんですか。 皆この甲割りへ目を着けるので これも哲学者からやり込められた結果かも知れぬ。 そうなさい。 なるほどと再び座蒲団の上に坐ったなり懐手をして考え込んでいる。 是非君に逢いたいと云うんだから あのね。 そうさなと主人は武右衛門君の哀願に冷淡であるごとく、寒月君の探検にも冷淡である。 そんな事をするのがわるいとしても、あんなに心配させちゃ、若い男を一人殺してしまいますよ。 主人は頬をふくらまして朝日の煙を吹き出しながらちょっと横を向いた。 　泥棒はこの時よほどおかしかったと見えて、下を向いて着物の襟へあごを入れた。 鼠の毒が総身にまわると大変だ、君どうかしてくれと責めるには閉口したね。