これだけ装飾がととのったところへ、下女がはいって来て坊ばの着物を拭いたついでに、すん子の顔もふいてしまった。 透垣をすい垣、茎立をくく立、皆同じ事だ。 恃むまじきを恃んで安しと云う。 見ず知らずの人のために眉をひそめたり、鼻をかんだり、嘆息をするのは、決して自然の傾向ではない。 物好きだな。 意気地のないところが上等なのである。 大きな気狂が金力や威力を濫用して多くの小気狂を使役して乱暴を働いて、人から立派な男だと云われている例は少なくない。 泥棒も驚ろいたに相違ないが、まさか私が泥棒ですよと断わる訳にも行かなかったと見えて、すまして立っている。 同気相求め、同類相集まると云うから、気狂の説に感服する以上は――少なくともその文章言辞に同情を表する以上は――自分もまた気狂に縁の近い者であるだろう。 君は心配の権化である。 いい恰好なの？　それが？　あんまりよかあないわ？　油壺なんか何で持っていらっしったの？ しっかりしてくれたまえ。 とん子の顔は南蛮鉄の刀の鍔のような輪廓を有している。 だれが見るもんですか。