何か御宅に手紙かなんぞ当人の書いたものでもございますならちょっと拝見したいもんでございますが端書なら沢山あります、御覧なさいと主人は書斎から三四十枚持って来る。 そんなに人の事をおっしゃるが、あなただって鼻の孔へ白髪が生えてるじゃありませんか。 主人は恐れ入るかと思うとあの師匠はいやに上品ぶって自分だけ人間らしい顔をしている、馬鹿野郎です憚り様、女ですよ。 曖昧じゃありませんよ、ちゃんと分っています、ただ説明しにくいだけの事でさあ何でも自分の嫌いな事を月並と云うんでしょうと細君は我知らず穿った事を云う。 さていよいよ本題に入りまして弁じます弁じますなんか講釈師の云い草だ。 しかしその周囲を囲繞する顔面的条件は如何な者でありましょう。 へえーと細君が差し合のない返事をする。 令嬢は癇癪を起してやけにベルをジャラジャラと廻す。 ――なに？――毎度御贔屓にあずかりましてありがとうございます？――何がありがたいんだね。 主人も自分で愛想が尽きたと見えて、そこそこに顔を塗り消してしまった。 何でも七代目なんだそうですなるほど七代目樽金は妙ですな。 線が八本並んでもあとの句が出来ないと見えて、今度は筆を捨てて髭を捻って見る。 今云う通りの訳であるから、先方で云うには何も金銭や財産はいらんからその代り当人に附属した資格が欲しい――資格と云うと、まあ肩書だね、――博士になったらやってもいいなんて威張ってる次第じゃない――誤解しちゃいかん。 パスカルがこんな事を云っている